弁理士も訴訟に関わることがあるって本当ですか?
おっ、よく知ってるね。本当だよ。
訴訟と言えば、弁護士の専門領域ですが、実は弁理士も訴訟に関わることがあります。
このため、「弁理士と弁護士の違いがよくわからない」という人もいるのではないでしょうか。
実際には、弁理士と弁護士は似て非なるものであり、仕事内容や適性は大きく異なります。
この記事では、弁理士が関わることのできる訴訟について説明したあと、弁理士と弁護士の違いなどについてお話したいと思います。
弁理士が関わる訴訟
弁理士の主な業務は、明細書作成や中間処理などの権利化業務ですが、実は訴訟業務を行うこともあります。
とは言っても、弁護士のようにあらゆる訴訟に携わることができるわけではありません。
まずは、弁理士が関わる可能性のある2つの訴訟について説明します。
侵害訴訟
『侵害訴訟』とは、正確には『特定侵害訴訟』と言い、特許権などを侵害する行為などに対して、損害賠償や侵害行為の差止めなどを求めて提起される訴訟のことです。
新聞記事などで『特許訴訟』という言葉を見たことがあると思いますが、それが侵害訴訟のことです。
侵害訴訟では、付記弁理士であれば、弁護士と共同受任することを条件に訴訟代理人になることができます。
付記弁理士とは、弁理士試験とは別の特定侵害訴訟代理業務試験という試験に合格し、登録を受けた弁理士のことです。
侵害訴訟で訴訟代理人になるには付記弁理士の必要がありますが、補佐人ならば弁理士資格さえあれば誰でもなれます。
補佐人は、訴訟代理人と比べるとできることに制約があるらしいのですが、私も詳しいことは知りません。すみません。
ただし、実際問題としては侵害訴訟の主導権を握るのは弁護士なので、補佐人と訴訟代理人のどちらであろうと、弁理士がやることにほとんど変わりはないと思われます。
審決取消訴訟
『審決取消訴訟』とは、拒絶査定不服審判や無効審判などの審決に不服がある場合に、審決の取り消しを求めて提起される訴訟のことです。
拒絶査定不服審判とは、特許庁の審査官が特許出願に対して拒絶査定を下した場合に、拒絶査定の取り消しを求めて審判官(審査官の上級職)にもう一度審査してもらう制度です。
無効審判とは、すでに成立している特許に対して異議を持つ者が、その無効を求めて特許庁の判断を仰ぐための制度です。
拒絶査定不服審判や無効審判で下された審決に不服があれば、さらに裁判所(知財高裁)に訴えを起こすことができます。この訴えが審決取消訴訟というわけです。
審決取消訴訟の場合は、弁理士であれば単独で訴訟代理人になることができます。付記弁理士である必要もありませんし、弁護士との共同受任が条件ともなりません。
訴訟における弁理士と弁護士の役割
訴訟において、弁理士と弁護士でどのような役割の違いがあるのでしょうか?
訴訟を進行していくに当たって主導権を握るのは、やはり訴訟の専門家である弁護士です。
私も一度だけ侵害訴訟に携わったことがありますが、訴状の作成や手続きの進め方など大方の部分は、ほとんど弁護士に任せっきりでした。
また、法廷で実際に弁論を行うのもほとんど弁護士であり、弁理士が発言することはめったにありません。
では、弁理士の出番はどこにあるのかと言えば、それは、イ号(侵害被疑品のこと)が特許権の権利範囲に属しているか否かという属否判断や、対象の権利に無効理由があるか否かといった判断を行う場面です。
こういった場面では、クレーム解釈や権利の有効性を日常的に検討しており、技術的な理解力のある弁理士のほうが専門性を発揮できるので、弁護士も弁理士の見解を求めてくることが多いです。
このように、弁護士と弁理士が共同受任している場合、訴訟全体については弁護士が指揮をとりつつ、弁理士が専門性を有する部分については弁理士が補助するという形態が一般的です。
弁理士と弁護士の適性の違い
私が思うに、弁理士と弁護士とではかなり適性が異なります。
わかりやすさを重視したため、表現が安直かもしれませんが(笑)、私の頭の中にあるイメージを表にしてみました。
弁理士 | 弁護士 |
---|---|
じっくり考えるのが好き | 頭の回転が速い |
頑固 (絶対的正しさを求める) | 頭が柔らかい (シロをクロと言える) |
話すのが得意ではない | 話すのが上手 |
目立つのは苦手 | 目立つのが好き |
理系 | 文系 |
オタク | 花形 |
弁理士の適性については、こちらの記事で詳しく書いています。
弁護士にはやっぱり弁が立つ人が多いです。
侵害訴訟をしたいなら弁理士?弁護士?それとも知財部?
審決取消訴訟は地味な訴訟なので話題にもなりませんが(笑)、侵害訴訟はニュースで大きく取り上げられることもあり、弁理士志望者の中でも侵害訴訟に興味のある人は多いです。
弁理士として侵害訴訟に関わりたいなら、訴訟経験の豊富な特許事務所に入ればその可能性を高めることができます。
しかし、弁理士のメイン業務である権利化業務なしで訴訟業務だけということはあり得ませんので、その点はご注意ください。
では、弁護士ならどうでしょう?
特許訴訟に強い弁護士というのは実際に存在しますが、弁護士でも特許訴訟だけで食べていくのは難しく、ほかの訴訟や相談業務も受けることが前提となるでしょう。
侵害訴訟をやりたい場合、企業知財部に勤務するというのも1つの手だと思います。
知財部であれば、弁理士資格がなくても当事者として訴訟に関わることが可能ですし、訴訟にまで至らなくても、その前段階の交渉などに携わる機会は多いと聞きます。
しかし、知財部にしても、訴訟業務は多岐にわたる業務の一部にすぎないので、自分の希望が叶うかどうかは会社次第というところが大きいでしょう。
結局、弁理士にしても、弁護士にしても、知財部にしても、侵害訴訟だけでやっていくのは難しいので、それ以外の仕事が自分に向いてそうかどうかを判断することが大事だと思います。
カブト先生は訴訟をやりたいとは思わないんですか?
一度やったけど大変だったから、あまりやりたくないかな(苦笑)。