弁理士ってクライアントには逆らえない立場なんですか?
答えにくいことをズケズケと聞くね…。
弁理士は士業の1つであり、『先生』と呼ばれる職業です。
しかし、実際には『先生』というよりも、まるで『下請け』のような働き方になっていることもあります。
クライアントからの依頼によって生計を立てている以上、ある程度下請け的になってしまうのは仕方ありませんが、先生らしく毅然とした態度を取るべきところもあるはずです。
今回は弁理士としての心構えについて私が思うところを書いてみたいと思います。
弁理士に期待されること
はじめに、弁理士がクライアントに期待されている役割を考えてみましょう。
細かいことを省いて大きく分けると、弁理士に期待される役割は次の2つに集約されると思います。
- 知的財産の専門家としての役割
- コストを削減するための下請けとしての役割
弁理士は知的財産の専門家なので、1つ目の役割を求められるのは当然です。この役割を求められなければ、そもそも弁理士の存在価値はありません。
その一方で、専門家だからと言って「いくらでも払うよ」なんて言ってくれる人はいません。
自分ではできない、あるいは、自分でやるとコスト(お金だけでなく労力も含めて)がかかるから弁理士に依頼するけど、「できるだけ安くしてね」というのが本心でしょう。
弁理士の専門家としての役割を認識している人は多いと思いますが、下請けとしての役割を認識しておくことも必要です。
大企業の知財部には、そういう捉え方をしているところが少なくありません。
『下請け』なんて言われると、弁理士としては面白くないのは確かですが、それが現実であることも知っておきましょう。
下請けの役割に徹しすぎた特許業界
こちらの記事でも書いたように、リーマンショック以降、特許業界の景気は低迷しています。
企業知財部から弁理士(特許事務所)に対して『コストダウン可能な下請けとしての役割』が強く求められ、『専門家としての役割』が過小評価されてきたからでしょう。
しかし、弁理士の仕事は誰にでもできる簡単な仕事ではありません。もっと自分の仕事にプライドを持って、クライアントと接してもいいのではないかと思います。
https://twitter.com/kabuto_benrishi/status/1185122576638476288特許事務所の経営者には、弱腰で押しが弱く、企業知財部の言いなりとなっている人が多いような気がします。自ら下請けの立場に甘んじているようにも見えます。
技術者や研究者出身の理系人間が多く、交渉事が苦手な人が多いからでしょうか…。
しかし、理不尽な要求に対しては「ノー」を突き付けるようにしないと、ジリ貧状態を脱することはできないと思うのです。
弁理士もクライアントを選ぶべし
企業知財部と特許事務所の関係は、担当弁理士が知財部担当者(あるいはその上司)にどのように評価されているかによって左右されます。
もちろん、「長いお付き合いだから」ということで、弁理士個人の名前ではなく特許事務所の看板で仕事をもらえることもあります。
しかし、最近はそういうぬるい関係は徐々に減りつつあります。
「〇〇先生だからお願いしたい」とか「△△さんは担当から外してほしい」と、良くも悪くも知財部担当者は弁理士をシビアに評価するようになっています。
面白いもので、弁理士をシビアに評価するクライアントほど、評価している弁理士には敬意を持って接してくれるのを感じます。理不尽な要求もしてきません。
弁理士としても、そういう知財部担当者とお付き合いしていると、『先生』としての誇りを感じることができますし、「〇〇さんのためなら」と仕事にも気持ちよく励めます。
反対に言葉遣いや物腰は丁重だけど、「下請けでしょ?」的な考えが見え見えの知財部担当者もいます。私はそういうクライアントの仕事は無理してまで受けないようにしています。
平気な顔で『短納期、高品質、低価格』を求めてくるクライアントと無理して付き合っても、こちらが疲弊するばかりです。
『先生』としての誇りを感じさせてくれるクライアントの仕事に注力したほうが、精神衛生上もいいですし、売り上げも安定しやすいです。
もちろん、仕事を断るというのは覚悟と勇気がいりますが、すべての仕事を無条件に引き受けることにもリスクがあるのです。
弁理士としての心構え
では、クライアントに評価される弁理士とは、どんな弁理士なのでしょうか?
その答えに別に面白味はありません。クライアントの要望をしっかり汲み取って、クライアントが望む権利の取得の手助けができる弁理士です。
つまり、今も昔も変わらない明細書作成や中間処理といった主要業務の能力を地道に高めることが、クライアントの評価につながるのです。
最近は、弁理士業務の幅を広げるために、「弁理士は知財コンサルにも取り組むべき」というような論調をよく見かけます。
新たな業務領域を目指すことを否定はしませんが、その根底をなすのは明細書作成や中間処理で培った能力であるべきです。
知財と経営をちょこっと組み合わせたような中途半端なコンサルなら、弁理士でなくても簡単にこなせるはずで、そこに力を入れても大して意味はないと思うのです。
弁理士の社会的地位や待遇を向上させるためには、明細書作成や中間処理といった基本業務の実力を向上させ、まずはそこで『先生』の名に恥じない仕事をすることが大事です。
その結果、クライアントにも評価してもらえるようになれば、おのずと弁理士がクライアントを選べる立場になり、ジリ貧の悪循環から抜け出すことができると考えています。
そういう意識をもっと特許業界全体で共有したいと思う今日この頃です。
『先生』って呼ばれるのも楽じゃないですね。
でも、僕はそれを誇りに思って仕事をしてるよ。