
弁理士は理系の資格と聞きましたが、文系の人はいないんですか?

文系弁理士で活躍している人もいるけど数は少ないね。
弁理士業務で圧倒的に多いのは、特許に関する権利化業務で、技術を理解できる能力が必須となります。
そのため、理系が有利であることは、以下の記事で述べた通りです。

でも、弁理士業務の中には、文系出身のほうが向いている業務もありますし、実際に文系弁理士として活躍している人もいます。
この記事では、文系弁理士の需要や目指すべきキャリアパスについてお話したいと思います。
文系弁理士の方が読むと不愉快に思う点もあるかもしれませんが、一個人の意見ですので、気を悪くされないようにお願いします。
文系弁理士の割合は約2割
文系弁理士の割合は約2割です(出典:弁理士白書)。
確かに理系が圧倒的に多いですが、「思ったより文系の人もいるんだなぁ」という印象です。
この2割の文系弁理士の中には、『意匠・商標専門の弁理士』と『意匠・商標に加えて特許業務もできる弁理士』がいます。
これから弁理士を目指す文系の人は、特許業務にも積極的に取り組むようにしたほうがよいと思います。
以下、その理由をお話します。
意匠・商標専門の弁理士になるリスク
文系出身の人には、「技術はよくわからないから、意匠・商標専門の弁理士になりたい」という人が少なくないでしょう。
確かに、意匠・商標の仕事だけであれば、技術に携わる必要がないので、文系の人でもやりやすいです。
特に判例の読み込みが得意な文系の人であれば、商標業務でその強みを生かせるかもしれません。
ただ、特許に携わらない意匠・商標専門の弁理士になることは、以下のようなリスクがあります。
意匠・商標は市場が小さい
日本における特許出願は年間約30万件であるのに対し、意匠出願は約3万件、商標出願は約20万件です。しかも、意匠・商標業務の単価は特許業務よりも低いです。
ざっくりと1件当たりの平均単価が、特許出願が25万円、意匠出願が10万円、商標出願が5万円として、市場規模を試算してみます。
- 特許:750億円(=25万円×30万件)
- 意匠:30億円(=10万円×3万件)
- 商標:100億円(=5万円×20万件)
特許に比べていかに意匠・商標の市場が小さいかがわかります。
さらに、特許は拒絶理由通知が出されることが多いので中間処理でも稼げますが、意匠・商標の拒絶理由通知は少なめなので、市場の差はさらに広がります。

意匠・商標業務だけで稼ごうとすると、小さな市場から多くの仕事を取ってこなければならず、競争が厳しくなるのは必然です。
同じ特許事務所内でも文系弁理士の年収は理系弁理士よりも低くなりがちです。
大手特許事務所でしか働けなくなる
意匠・商標業務だけで大きく売り上げを伸ばすことは困難なため、意匠・商標専門の弁理士を抱える余裕があるのは、ほぼ大手特許事務所に限られます。

大手特許事務所のみとなると、転職の際に選択肢がかなり限られてきます。
仮にこぢんまりとした特許事務所で働きたいと思っても、意匠・商標専門だとそれはなかなか叶わないでしょう。
また、独立開業を目指すとしても、特許業務をせずに意匠・商標業務だけで生計を立てるのは至難の業です。
意匠・商標業務はAIに代替されやすい
昨今、AI(人工知能)が本格的に普及しつつあります。
「人間の仕事がAIに取って代わられる」なんて話をちらほら聞くようになってきましたが、弁理士もこの流れに無縁ではいられないでしょう。
弁理士業務の中でAIに代替されやすいのは、一番が商標業務、次が意匠業務だと思います。
意匠・商標業務では「2つの意匠(商標)が似ているかどうか」という類否判断を行う必要があるのですが、こういった比較処理はAIが最も得意とする処理だからです。
もちろん、特許業務がAIに代替される可能性もありますが、それは順番的には最後になると思います。
それに、特許業務がAIに代替されるときには、世の中の仕組みそのものが大きく変わっている可能性が高いのではないでしょうか。
なので、私は「今から過剰に心配してもしょうがない」と割り切ることにしています。


弁理士みたいな専門職でも、AIが脅威になるかもしれないんですね。

明細書作成用のAIも最近開発されているらしいよ。
特許業務もできる文系弁理士なら需要大!
以上のように、意匠・商標専門の弁理士を目指すのはリスクが大きいと思います。
もちろん、意匠や商標の大家となって、その分野で名を馳せることも不可能ではありませんが、かなり険しい道のりであるのは間違いありません。
文系弁理士のキャリアパスとしては、「意匠・商標業務を任され、かつ、分野限定でもいいから特許業務ができる弁理士を目指す」というのが堅実でしょう。
特許業務でも、日用品や機械系の簡単な案件なら、勉強しながら十分対応できます。まったくできないのと、一部の案件だけでもできるのでは大違いです。
それに、私も含めて、特許業務ばかりしている弁理士は、意匠・商標の仕事を避けたがる傾向があります(笑)。
このため、特許・意匠・商標すべてができる人なら、どこの特許事務所でも重宝されると思います。

営業力を生かすという手もあり
弁理士に多い理系人間には、人とのコミュニケーションが苦手という人が割と多いです。
一方、私の知る限り、文系弁理士にはコミュニケーション能力に優れている人が多く、理系社会の特許業界ではその弁舌巧みな姿が華々しく映ります(笑)。
実際、私の知り合いにも商標専門の文系弁理士でありながら、その高いコミュニケーション能力(対人能力)に基づく営業力が評価されて、パートナーに昇格した人がいます。
かなり特異な例かもしれませんが、文系の人は営業力などで自分の存在価値をアピールしていくというのも、1つの手としてあるのかもしれません。
なぜ文系弁理士を目指すのか?
最後に、余計なおせっかいですが、文系出身で弁理士を目指している人は、そもそもなぜ弁理士を目指しているのでしょうか?
文系であれば、難易度は高くなりますが弁護士を目指すという手もありますし、そのほかの士業も文系が主流のものがほとんどです。

「あえて弁理士を目指さなくてもよいのでは?」という素朴な疑問が湧いてきます。
このような質問を投げかけられて明確に答えられない人は、厳しい言い方になりますが、弁理士を目指すことを考え直したほうがいいのかもしれません。
文系弁理士の場合、理系以上に転職時の不安が大きいと思いますので、リーガルジョブボードなどの専門エージェントでしっかり情報収集することをオススメします。


やはり文系は厳しそうですね…。

一般論としてはそうなるね。ただ、文系・理系にかかわらず、結局は本人次第だと思うよ。